銅含有リン酸カルシウムの作製と消臭・抗菌性評価
- リン酸カルシウムとは
- リン酸カルシウムの消臭性
- 重金属による抗菌効果と消臭効果
- リン酸カルシウムへの添加
- 研究目的
- スライド
リン酸カルシウムは,リン酸イオン[PO4-]とカルシウムイオン[Ca2+]を含む固体であり,燐灰石や生物の骨の成分として自然界に多く存在します.特に有名なものが,ハイドロキシアパタイトです.ハイドロキシアパタイトは人の骨の60%,歯のエナメル質の97%を占める物質で,最も身近なリン酸カルシウムであるといえます.
リン酸カルシウムの種類は結晶中のCaとPの比率によって決定します(Fig.1).リン酸カルシウムは種類によって異なる特徴を持つため,その応用分野は多岐にわたります(Fig.2).
Fig.1. リン酸カルシウムの結晶相の種類
Fig.2. リン酸カルシウムの応用例[1]
リン酸カルシウムには消臭効果があり,なかでもハイドロキシアパタイト(以下,"HA")は質量当たりのアンモニア吸着率は活性炭,ゼオライトの数百~数千倍との研究報告があります(Table1).
Table1. 各種消臭剤のアンモニアガス吸着量(単位:mg/g)
また先行研究では,リン酸カルシウムの種類の違いによって消臭ガスに選択性があることが明らかとなっています(Table2).
Table2. ハイドロキシアパタイトとβ-TCPの消臭ガス選択性(単位: %)[2]
重金属イオンには抗菌効果があることが知られています.イオン化した重金属が菌内に取り込まれることによって抗菌性を発揮すると言われていますが,その抗菌メカニズムは解明されていません.重金属イオンによるタンパク質の生産機能の阻害や,活性酸素による酸化作用など複数の説が考えられています.
抗菌性を示す重金属にはさまざまな種類が存在します(Fig.3).これらの金属の多くは高価な貴金属や,人体に悪影響を及ぼすことが知られるものであり,安全な抗菌金属はAgやCuなどに限られています.
重金属の抗菌効果により臭いの原因菌を抗菌することで,重金属を消臭剤として利用することが可能です.
Fig.3. 重金属イオンの抗菌性[3]
リン酸カルシウムのイオン交換特性によって,リン酸カルシウムの結晶内に金属イオンを含有させることが可能です.これによって,リン酸カルシウムの消臭性に,抗菌性による消臭効果を組み合わせることが可能で,さらに効果的な消臭剤を作製することが可能であると考えられます.Cuの含有方法として,Cu塩をCa(OH)2懸濁液またはH3PO4水溶液に溶解させ,それぞれを混合することで溶液中でCaイオン,Pイオン,Cuイオンを反応させる溶液法が挙げられます.
本研究ではCu含有リン酸カルシウムの作製方法確立を目指し,抗菌性評価,細胞毒性評価を通じ高効果と安全の両立性を検証することで,よりよい消臭製品となる新素材を模索します.
[1](左)築野グループ(株)HP
https://www.tsuno.co.jp/products/fertilizer-feed/dibasic-calcium-phosphate/"
[1](中)オリンパステルモバイオマテリアル(株) HPより
https://www.biomaterial.co.jp/jp/news/2006/nr002.html
[1](右)Dr.アパタイト(株)HPより
https://drapatite.com/?yclid=YSS.EAIaIQobChMImNKJjq7T_wIVAbKWCh0XLAV2EAAYASAAEgJcI_D_BwE
[2]尾関和秀: 科学研究費助成事業データベース スパッタリング技術を用いたハイドロキシアパタイト薄膜の消臭機能 2004年度実績報告より
[3]松村吉信: 銀イオンや銅イオンの抗菌性 化学と教育53(5) (2005)より